医療経済評価とその背景
医療技術評価(HTA: Health Technology Assessment)とは医薬品を含む医療技術の導入が社会に与える短期的あるいは長期的な影響を検討する政策分析の方法であり、その目的は意思決定者に対して、選択肢についての客観的・科学的な判断材料を提供することです。中でも医療技術の費用対効果の評価は、国民医療費膨張の問題に直面した先進諸国において大きな関心事となっており、近年、多くの欧米諸国でHTA機関が設立され、医療技術の経済評価研究が数多く実施されるに至っています。また、医療経済評価研究のエビデンスは、治療選択など診療上の意思決定、あるいは医療技術の償還・価格設定など医療政策上の意思決定において、各国の医療制度に組み込む形で活用されるようになっています。
海外では、1992年にオーストラリアが、医療経済研究ガイドラインを作成し、承認申請時に経済評価エビデンス提出を義務付けたのを皮切りに、カナダ、イギリス、ドイツ等の国でHTA機関が設立されました。また、2008年より韓国のHTA機関であるHIRAが薬剤経済評価の活用を開始するなど、HTAの政策活用の流れはアジアにまで広がるに至っています。
我が国では平成24年度診療報酬改定に係る答申書付帯意見にて、費用対効果評価導入の検討の必要性が明記されたことを受け2012年5月から中医協費用対効果評価専門部会が設置され、評価対象、手法、結果の活用方法等について議論が進められています。したがって、将来的には、規制当局、企業、大学・研究機関が連携する形で、我が国の医療システムの視点から、医療技術の経済評価研究を推進することが必要となることが考えられます。このように本邦においても医療経済エビデンスの政策活用への動きが徐々に見え始める一方、その本格的な実現には評価体制の確立をはじめ、ガイドラインやデータベースの整備、教育・研究体制の構築など、未だいくつかの課題が山積している状況にあります。
医療経済・QOL研究センター(CHEQOL)は、こうした国際的潮流に沿って我が国における臨床上あるいは医療政策上の意思決定を支援するエビデンスを発信することを主たる目的とし、医療経済評価研究の推進、人材育成、研究基盤整備などの活動を行います。